今のドアを開けると7月の埼玉とは思えないほど涼しかった。涼しいを通り越して寒い。暑がりの私が言うのだから本当に寒いのだ。

 

私の実家でこんな気温の日に冷房を入れることなんて今まで一度たりともなかった。

 

そしてまだ、この部屋に入ってから感じた違和感はある。そう、匂いだった。どこかで嗅いだことがあるな、と思ったが、それもそのはずだった。

そのためにここへ帰ってきたのだから。

 

その君は前と変わらぬように見えた。

家を出てから私の匂いが変わってしまったのであろう、私を私と認識しなくなり、何者かもわからぬ者から自らを守ろうとする虚勢も今はどこへも響かない。

赤の抜けた耳は柔らかく、しかし私の手を拒まない。

身体を覆う白い毛は柔らかかった。ただ寝ているだけ。

冷たいと感じるのはこの家に似合わない強く効きすぎた冷房のせいだろう。

そういえば最近、皮膚の調子が悪い。

なぜ口を閉じていないの。

 

滑り台の下

ラヂオ体操

集う子供ら

白い片割れ

開かない瞼

 

鮮明に思い出せるよ。